初恋を殺して。 回想録
「あぁ、うん、なるほど」
クロロに幻影旅団の団長だと告げられて、は無感動にそう返事をした。
二人きりのの部屋が、音を無くす。
はある程度のことは予想していたのだ。そりゃぁ、持ってくる本が曰く付だったり超貴重な本だったりどこかの博物館で五十年ぶりに展示されるとニュースで言われていた本だったり。そんなものばかりなのだ。まっとうな職業ではないことや、本を正当に手に入れているとは思えないことくらい、容易に想像がつく。
「……おい、、それだけか」
ベッドに並んで座っていたために、脇を肘で小突くクロロ。まさかの襲撃に驚いて、はびくっと体を震わせた。
「えぇー。なにか言ってほしいの?」
「なんか、こう、一言二言あってもいいだろ。それでも愛してますとかなんとか」
「すごい、そんな言葉をもらえると考えてたの。そういうのは外でひっかけた女に求めてくれる?」
は笑ってそう返した。
「そもそも、本を愛する人にそれ以上の区別なんて必要ないよ」
のその考えは、師匠と過ごしてきた人生の中で培われた、ある種の宗教のようなものであった。
「本を愛するということは、本の前にすべてが平等ってことだよ」
「犯罪者も、聖職者も、男も、女も」
「もちろん。だって、本を前にして、私もあんたも読むことしか出来ないんだから」
「へぇ……」
クロロは意味深に頷くと、おもむろに『盗賊の極意』を作り出す。分厚い本をに持たせて、それから、肩に手を回して、ゆっくりと顔を近付けた。
「ちょ、ちょちょちょちょ、ま、クロ、クロロ、なに、なんなの」
「なんだ? 本はの手にある。つまり今の俺達に性別なんて関係ないんだろ?」
「え? なんで? いや、ちょっと、それ私の発言を拡大解釈しすぎなんじゃ」
「イイコト聞いたから、今日はちょっと本気をだそうかな」
え、とが聞き返す隙も与えず、クロロはベッドにやさしく押し倒した。そう、やさしいのに拒否をさせない。
「なぁ。俺は本当にお前のことが好きだよ。俺とお前の間に性別なんてものは必要なかった」
「えぇと、う、」
の発言は、クロロの唇で押し消された。ついばむように数度キスをして、それからしっかりと水音のするキス。唇を割って侵入するクロロの舌に、はうっすらと閉じた口を開けてしまった。
どんどんと流されてしまう自分を感じながら、嫌悪していないことに驚いた。
男女も悪人も聖人も無いというのは、の中では「権利」のことであった。本という唯一の神に等しい存在の前に、人間は読むことしか出来ない。だから平等なのだ。だがしかし、
(しかし、じゃない、これはクロロの所為だ、この男が手足れだからこんなことに、あぁ、んん、くそう、)
クロウは思考を保てないでいた。だが手放す様子も無く、クロロはそれを敏感に察知しており、陥落させるのに躍起になっていた。
「ん、ふ、……嫌がらないんだな」
光る糸を伸ばしながら離れたクロロがそう言って笑った。
「そうだね……なんだろう、こう、一言では言えないんだけれども」
「何も言うな。俺を感じてくれればいい」
の言葉を熱い吐息で遮って、もう一度唇を貪った。
しつこいほどに口辱をしながら、クロロは髪を撫で、耳を撫で、首筋、少し寄り道してうなじ、それからあごへ撫で返して、もう一度首筋を伝って指を降ろす。
ゆっくりと服の上を這う指を感じて、は追い詰められていた。抵抗したいわけでも無いが、このまま流されるのも、少しばかり、嫌だった。判断を押しやるクロロの指が、体温が、重みが、にはまだ少しばかり受け入れ難い。
が不意にびくっと震えたのを感じて、クロロは自分の勝利を確信していた。「落とせる」――――そう思ったクロロは、己の欲望に従順に体を動かした。
指先は服の端を捕らえて内側へ侵入した。古本屋というには綺麗に鍛えられている腹筋をゆっくり上がり、服を脱がせに、
ピピルピルピル! ピピルピルピル!
「クロロ、電話だけど?」
無理矢理クロロの頭を外したがそう言うと、欲情に濡れた瞳のクロロが眉を顰めていた。
「電話など放っておけ」
「でもあの着信音、いつもかかってくる人だよね?」
「いやだ、俺は続きをすぐお!」
はクロロの腹部に(硬をした)膝蹴りを見舞わせて、自分の上から弾き飛ばした。
「電話。でるよね?」
「わかった、わかったから硬で俺の股間を蹴る予備動作をするのをやめてくれ、出るから!」
「わかればよろしい」
急死に一生を得た思いで、は鷹揚に頷いた。
+--+ +--+ +--+
「くそっ、良い知らせなのに最悪のタイミングだ」
電話を切ったクロロはそう言って、に抱き着いた。
「はいはい。行くんでしょう?」
の声音は、もういつも通りだった。電話が着た時も、とても冷静な声だったのが耳にこびりついている。まるで熱に浮されているのがクロロだけかのような……
「続きをしてから出発しても問題ない」
クロロは妙な気分になって、抱きしめる力を強める。
「そう、クロロ、その件について言っておきたいことが有るんだけど」
「…………なんだ」
「さっきの本、あれノーカンね。あれって私は読めないでしょ」
初めて見せたのに、なんでそこまでバレたんだ、と眉を顰めるクロロ。
「…………あぁ、読めない。というかノーカンってなんだ、ノーカンって」
「今の強姦まがいの件を流してやるからさっさと行ってこいってことかな」
は笑ってクロロをひっぺがして(今度は蹴らなかった)、デコピンした。
「行ってらっしゃい。行きがけにお店によって、本を受け取ってから行ってね」
「ああ。また本を手に入れたら、お前にも見せにくるさ」
「楽しみにしてますよ、クロロ」
回想おわり。
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Tips:本編が終わって欝モード終了したので、回想部分を書いてみました。
おあずけクロロ。結局本編が終わってもこの続きが実行できるチャンスはないんですけどね。ふひひ。
おあずけクロロ。結局本編が終わってもこの続きが実行できるチャンスはないんですけどね。ふひひ。
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